幸せ1 家事が家族全員のものになる

我が家で「家事リスト」を始めようとしたとき、高校生だった娘が反対しました。
「どうせそんなものを作ったって、なんの役にも立たないよ」

これには理由があります。

我が家には娘と息子がいます。二つ違いの姉弟です。子どもにはお手伝いをさせると良いと聞いていたので、幼稚園くらいのころからいろんなお手伝いをさせてきました。

最初は、簡単なお手伝いをそのつど頼んでやってもらっていたのですが、小学校高学年になって、子ども二人で洗濯ものを取り入れ、たたんで片づけるまでをやる、と毎日決まった家事を担当してもらうことにしました。

すると、姉弟仲がとたんに悪くなりました。

男の子と女の子の違いなのか、性格の違いなのか、2歳のいう年齢差による違いなのかはわかりませんが、お手伝いをしなければいけないと気づくのは常に娘。娘が息子に命令。息子はしぶしぶ手伝う、という構造ができてしまったのです。

それはまるで、一般の家庭でよくある妻と夫の関係性そのものでした。

これはいけない、と思って、今度は1週間おきの担当制にしました。洗濯関係とご飯の後片付け関係とに仕事をわけ、それぞれ別々の家事のお手伝いをしてもらうことにしました。

ところが、それでも問題は解決されなかったのです。息子はなかなか自発的にお手伝いをしません。それに業を煮やした娘が「お手伝いもうしたの?」と弟を怒るという構図が出来上がってしまったのです。娘には「弟には言わなくていいよ。お母さんが言うから」と言ってあったのですが、私がつい言いそびれるので、彼女のイライラはおさまりません。

「弟はわざとお手伝いをしないようにしている。自分がやらなかったら誰かがやってくれると思っている。」と娘は言います。

だから『家事リスト』なんて作っても無駄なのだと。

いやがる娘を「まあまあ、とりあえずやってみようよ。やっても変わらないかもしれないけど、やらなければ何も変わらないんだし。」となだめての見切り発車です。

私自身も、効果があるのか無いのかは半信半疑でした。

私が作った『家事リスト』を夕飯の時に食卓に出して息子に説明しました。

「お母さん『家事リスト』を作ってみたの。我が家にはこれだけ家事があって、君たちにお手伝いしてもらっているのは、この中の色づけされたこの部分。母さんも忘れっぽいから、家事したらサインをすることにしたから、君も自分のお手伝いが終わったら、そこにサインして。」

「分かった」と答えた息子は、その後、しばらくその家事リストを眺めていました。

「『お風呂の準備』と『お風呂の掃除』はなんで違うの?」

食事の時も、めったに口を利かなくなっていた思春期の息子が珍しく質問してきました。

『お風呂の準備』は子供たちのお手伝い項目に入っていたので、軽くお風呂を掃除してからお湯をためるところまでが彼らの仕事です。自分がお風呂の掃除もやっていると思っていた息子は、それとは別に『お風呂の掃除』という項目があって不思議に思ったのでしょう。

「あんたは知らないと思うけど、目地の部分をたわしでこすって黒ずみとったり、見えないところの汚れをとったり色々あるんだよ。私だってときどきお風呂上りに気づいたらやってるよ。」

さすが娘、わかっています。一方で、娘がそんなこともやっていてくれたことに驚きました。

「そうかあ」

と息子はさらに食い入るように『家事リスト』を見ていました。

そうなのです。彼はどんな家事があるのか、わかっていなかったのです。

私も驚きましたが、私以上に娘が驚きました。

「『家事リスト』って、効果あるのかもね。あんなに食いつくなんて思わなかった」

我が家で初めて家事を共有できた瞬間でした。

女性にとっては家事は当たりまえのことです。リストを作れと言われれば、あっという間に10でも20でも家事が思いつくことでしょう。でも、本当はそれに気づくのってすごいことなのです。

家事に不慣れな男性や子どもに家事のリストを作れといったら、多分、「掃除」「洗濯」「食事づくり」「食器洗い」くらいしか出てこないのではないでしょうか。

悪気があってそうしているわけではありません。本当に気づいていないだけなのです。

新入社員に仕事を教えるときには、会社にはこれこれの仕事があって、作業単位に分けるとこれとこれとこれが毎日ルーチンでやる仕事だよ。だから君は、この作業をやってね、と教えてあげる必要があります。

『家事リスト』を作るのはそれと同じことです。

自発的行動や工夫が出てくるのは、ひととおり仕事に慣れてからです。

だからといって、最初から分担しようとすると、作業リスト、TODOリストになってしまいますので、できるだけルールを決めず、まずはどんな仕事があるのか、知っている人が知らない人に教えてあげるつもりで『家事リスト』を作って、どんな家事があるのかを家族で共有してみてださい。

「気が利くね」と言われると嬉しくなる女性は多いと思いますが、本当に女性は気が利きます。逆に気が利くのが当たり前すぎて、夫の「気が利かなさ」を許せないと思ってしまうのかもしれません。

「気が利く」というのは、「気がつく」の先にあります。家庭でも仕事場でも「良く気がつく人」と「まったく気がつかない人」がいますよね。
私は典型的な「気がつく人」で夫は典型的な「気がつかない人」です。

それは、決してどちらかが良くてどちらかが悪いわけではありません。「気がつく」私は、目に見える形で気づかいをすることが得意だけれど、気がつかない人を許さない冷たさがあります。

また、人の話を素直に聞かず、視野が狭くなる傾向があります。

一方「気がつかない」夫は、気の利いたことができないので、気が利いた企画で家族を楽しませるということはありませんが、寛容で優しく、人の話を素直に聞き、一緒にいるだけで温かい気持ちになります。

「気づく人」が、「気づかない人」を責めることで優位に立てるのは、実は「気がつかない人」が、自分が責められる立場に甘んじて、それを許してくれるからなのかもしれません。

「気づく人」に「気づかない人」になれということが難しいように、「気づかない人」に「気づく人」になれというのは難しいし、むしろ、そんなことはせず、今風に言えば「ありのまま」でいた方がうまくいくのではないでしょうか。

家事で問題なのは、「気づいた人」だけがすることになってしまうということです。だから、「気づく人」である妻が被害者意識を持ってしまうのです。
それを解決するのが「家事リスト」です。

『家事リスト』を作ると、「気づかない人」を「知っている人」にすることができます。「気づくこと」と「知っていること」は全く違いますが、同じだけの行動はできるようになります。

『家事リスト』があると、「気づかない」けれど優しい人たちが家事に参加してくれるようになります。

 

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