エピローグ

「わたし、将来結婚なんてしない」
ある日、高校生の娘が宣言しました。
「結婚しても、女の人だけが大変になるだけで、全然メリットがないもの。」

母である私はぎくりとしました。それは、母である私の結婚生活が娘にとったら損しているように見えるということを指摘されているような気がしたからです。

我が家は変形共働き世帯です。
夫は純国産の銀行員。私は外資系の会社で正社員として働いていますが、週に3日は在宅勤務をしているので、時間の融通をきかせることができます。
子どもが学校から帰ってくる時間に家にいられるのは嬉しいし、学校の1時間程度の用事だったらわざわざ会社を休まなくてもすみます。

ただ、基本的に家にいるので家事はほとんど私がしています。

それでも、今の日本の社会システムの中ではずいぶん恵まれていると思っていました。
だから、できるだけ不満は言わないようにもしてきました。

だけど娘にはばれていたのです。私が実は不満たっぷりだったのを。

結婚当初は普通の共働きでした。

「時間がある方が家事をする」のが普通だと思っていたし、妻が家事をするのが当たり前だという価値観の中で育ってきたので、家事の負担が大きいのは理不尽ながらもしょうがないと思っていました。

そんなことで夫と喧嘩もしたくありませんでしたので、多少の不満はあったものの、まあそんなものかと思っていました。

多少の不満がありつつも穏やかに新婚生活をすごし子どもを授かりました。

私はすっぱりと仕事を辞めました。

仕事人間の私と、仕事の時間に融通がきかせられない銀行員の夫が共働きのまま子どもを持ったら家庭が破たんすることは目に見えていたからです。
収入は減りますが、夫の給料で暮らせなくはありません。

専業主婦というものを経験してみたい気持ちもあり、その選択に躊躇はありませんでした。

そうして、専業主婦生活が始まりました。

子どもが一人増えると待ったなしの家事が増え、量も質も倍増します。

さらに、乳飲み子と一緒の生活は、すべて子どものリズムに合わせなければいけません。

夜中2時間おきの授乳で肉体的な疲労も蓄積していきます。

その精神的・肉体的な負担は想像していたもの以上でした。

それでも専業主婦になってしまっていた私は、夫に家事のヘルプを頼みづらくなり、「育児ノイローゼ」一歩手前の私は可愛いはずの我が子を抱え、毎日毎日途方にくれていました。「自分だけが大変病」そのころ、私は自分の状態を自虐的にそう表現していました。

1人で誰も評価してくれない家事と育児を毎日毎日続けることは、賽の河原で石を積むような作業です。

育児ノイローゼ、児童虐待…そんな言葉といつも隣り合わせでした。

結婚前は、料理も掃除も洗濯も得意とは言わないまでも、そんなにつらい作業ではなかったのに、育児に追われていた頃の家事は本当に辛かったです。

夫は休日手伝ってくれましたが、平日は朝7時に出かけ、夜11時に帰ってくるので、とても家事などする余裕がありません。

その当時「産後クライシス」という言葉はありませんでしたが、まさにその状態でした。夫に対して「一生帰ってくるな」と思ったことが一度や二度ではありませんでした。

そして私はついに切れました。
「あなたは社会人としての責任は果たしているかもしれないけれど、家庭人としての責任を果たしていない。」

夫はすまなそうな顔をしましたが、会社での責任が増す時期だったせいもあり家庭で過ごす時間を増やすことはできず、そんな夫に私は定期的に切れ、夫はすまなそうな顔をするものの仕事のスタイルを変えることができず、その繰り返しでした。

育児だけの生活があまりにつらかったので、2年ほどで専業主婦を自主退職し、パートタイムで仕事を再開しました。

育児だけでも大変なのになぜ、と思われるかもしれませんが、子どもを保育施設に預けたり、家事サービスを利用できるし、私も仕事をしているんだからという言い訳ができるようになったので、逆に精神的に楽になれたのでした。

ただ、夫の仕事の忙しさは変わらなかったので、会社のそばに引っ越すという荒業で解決しようと試みました。

結果、不満は多少緩和され、こんなものだ、今の日本ではずいぶん恵まれている方だと自分に言い聞かせ、そのうち子どもも少しずつ大きくなり、育児の負担が少しずつ減り、すごく満足とは言えないまでも、不満を言ったらバチがあたるくらいには幸せな家庭生活を送ってきました。

しかし、そんな私に突き付けられたのが、娘からの「結婚しません」宣言です。

「いやいや結婚はいいものよ」と口先だけの嘘ばっかりの私の言葉が娘にどう聞こえていたのでしょう。

20年間の結婚生活を幸せだと思い込もうとしていたけれど、本当は不満たっぷりの私を見透かすかのような娘の冷たい目。

それから私は考えました。なぜ私は不満なのだ。

なぜだ?
なぜだ?
なぜだ?

夫が悪いという結論になったり、夫の会社が悪いという結論になったり、日本の社会が悪いという結論になったり、男全体が悪いという結論になったり。
その結論は、どれをとっても解決策が見えず自分自身を袋小路に追い込むものばかりでした。

社会が変わるのを待っていたら、不満だらけのままおばあちゃんになってしまいます。

こんなに不満なのだからもう夫と離婚してやるという気持ちにさえなりました。

明日こそ夫にこの不満を全部ぶちまけてやる。

いざとなったら離婚してもいい、と思ったまさにその日、答えは突然降ってきました。さすがに神様がそんな私と夫をかわいそうに思ったのかもしれません。

『家事は愛情表現なのだ』

そういうことだったんだ。それが分からなかったから、私も夫もこんなに苦しんでいたのだ。

ある日夕飯のときに中学生の息子が何気なく聞いてきました。

「お母さん、この料理どうやって作るの?」

子どもたちもいつか自分自身の家庭をもって、愛を与え合うことでその家庭を育てていきます。彼らがいつか、家族のために愛情あふれる料理を振る舞っている姿が目に浮かびました。

今なら私は本心から子供たちに伝えることができます。

「結婚って本当にいいものよ。素敵な伴侶を見つけて家族になって、愛情を毎日与え合って、素敵な家族の歴史を紡いでいきなさい。あなた自身が愛と感謝でいっぱいになったら、社会にその愛を広げていきなさい。そしたら、世界が愛と平和でいっぱいになるから。」と。

この小さな記事が、家事に悩むすべての家庭に小さな温かい光をもたらすことを心から祈っています。

最後に、最愛の夫と子どもたちには言葉にならないほど感謝しています。

そして、心から愛しています。

 

【関連記事】

プロローグ 家事と言う名のラブレター

幸せ1  家事が家族全員のものになる

幸せ2  家事に達成感と幸福感が生まれる

幸せ3  家族に対する感謝の気持ちが生まれる

幸せ4  やり忘れの家事がなくなり家族の非常事態にあわてなくなる

幸せ5  家族や自分が抱えていた問題が解決される

幸せ6  人と比べなくなり自分流の家事・育児を楽しめるようになる

幸せ7  家族の歴史が紡がれていく

幸せ8  外の世界の愛にも感度が高くなる

幸せ番外編    社会問題としての家事労働

エピローグ 

 

コラム1  家事のテーマソング

コラム2 うまくいっている家庭は自然とやっている

コラム3  男性にとっての家事

コラム4  専業主婦がいる家庭の夫の言い分

コラム5 家事と仕事の相乗効果

コラム6   あなたは夫婦で幸せになりたいですか?

 

 

FavoriteLoadingこの記事をお気に入りに追加